カトリック かとりっく
日常語になった神学
原語
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古典ギリシア語 καθολικός
katholikos
全体にわたる。全般的な
kata(〜に沿って・〜にわたって)+ holos(全体)。この二語をつないだ副詞句「全体にわたって」から作られた形容詞
「カトリック」は、もとは固有名詞ではありません。ギリシア語 katholikos は「全体にわたる」、つまり「全般的な・普遍的な」という、ごく普通の形容詞でした。今も信条のなかでは、その一般語の意味で唱えられ続けています。
「全体にわたって」という副詞から
kata(〜に沿って・〜にわたって)と holos(全体)。この二語をつないだ副詞句が「全体にわたって」で、そこから形容詞 katholikos が作られました。アリストテレスは katholou(全体にわたる=普遍的)を、kath' hekaston(一つひとつの=個別的)の対として使っています。論理学の基本語です。宗教の語ではありませんでした。
一般語としての用法は、今も聖書の目次に残っています。新約聖書の一部の手紙を「公同書簡(カトリック書簡)」と呼ぶのがそれです。ヤコブ、ペトロ、ヨハネ、ユダの手紙群。パウロの手紙が特定の町の教会に宛てられているのに対して、こちらは宛先が特定されていない——つまり「全般向け」という意味です。もっとも、ヨハネの手紙二と三のように個人宛てのものも含まれていて、呼び名は厳密ではありません。
いつ教会の語になったか
キリスト教の文脈でこの語が現れる最も古い記録は、アンティオキアのイグナティオスがスミルナの教会に宛てた手紙です(2世紀の初めごろ)。「司教がいるところに会衆がいる。イエス・キリストがいるところに、カトリックの教会がある」。ここでも意味は「全体としての教会」で、ある土地の教会に対する「全体」を言っています。
381年のコンスタンティノポリス公会議でまとめられた信条には、「一・聖・公・使徒的な教会」という句が入りました。この「公」が katholikos です。では、何をもって「全体にわたる」と言えるのか。5世紀のレランスのウィンケンティウスは、434年ごろの『コンモニトリウム』で一つの目安を出しました。「どこでも、いつでも、すべての人によって信じられてきたこと」。この三条件は「ウィンケンティウスの基準」と呼ばれ、以後さまざまな立場から引かれ続けています。
固有名詞になるまで
一般語が特定の教会の名前として固まるのは、西方の教会が分かれてからです。英語で Roman Catholic という複合語が広く使われるようになったのは17世紀。それ以前は Roman、Romish といった短い呼び方があり、これらは非難を含む他称でした。カトリック側の資料であるカトリック百科事典(Catholic Encyclopedia)は、Roman Catholic はより穏当な言い方として交渉の場などで使われるようになった、と説明しています。もっとも当時から、「ローマの」と「全体にわたる」を並べること自体が矛盾だ、という批判が英国国教会の側から出ていました。
教派による違い
- カトリック カトリックは、信条の「公(カトリック)」と自分たちの教会が重なると説明してきました。ローマ司教との交わりが、その一致のしるしだという整理です。「ローマ・カトリック」は英語圏で広まった呼び方で、公式の文書では単に「カトリック教会」と自称します。
- 正教会 正教会も、信条を唱えるときに「公なる教会」と言います。自分たちがその「公」に当たると理解しつつ、教派の名乗りには「正教(オーソドックス)」のほうを選びました。同じ形容詞を持ちながら、別の語で名乗っていることになります。
- プロテスタント プロテスタントの多くは、使徒信条の同じ箇所を日本語で「聖なる公同の教会」と訳してきました。教派名と読まれないための訳し分けだと説明されます。ここでの「公同」は、時代と場所を超えたキリスト教徒の全体を指す、という理解です。
- その他 聖公会など西方のほかの教会も、同じ句を唱えます。つまり「カトリックである」という主張は、カトリック教会だけのものではありません。この形容詞を誰が名乗ってよいのかが、そのまま論争の主題になってきました。
意味の変遷
- 古代ギリシア 一般語。「全体にわたる」。アリストテレスは「普遍的な」の意味で使う
- 2世紀の初めごろ アンティオキアのイグナティオスの手紙に「カトリックの教会」という語が現れる。意味は「全体としての教会」
- 381年 コンスタンティノポリス公会議の信条に「一・聖・公・使徒的な教会」が入る
- 434年ごろ レランスのウィンケンティウスが「どこでも、いつでも、すべての人によって」という目安を出す
- 17世紀 英語で Roman Catholic という複合語が広まる。一般の形容詞が、特定の教会の名前としても働き始める
今の使われ方
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「カトリック系の学校」
カトリック教会につながる学校
ズレ 日本語には固有名詞の側だけが入った。「普遍的な」という一般語の意味は、カタカナの「カトリック」には乗っていない
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catholic tastes(英語)
好みが広い。分け隔てがない
ズレ 英語には一般語のほうも残っている。小文字の catholic が「幅広い」、大文字の Catholic が教派名。表記で区別している
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「聖なる公同の教会」(使徒信条)
時代と場所を超えたキリスト教徒の全体
ズレ 同じ katholikos を、日本語は場面によって「カトリック」「公同」「普遍」と訳し分けている。もとは一語
よくある誤解
「カトリック」は、もともと教会の名前だ
もとは「全体にわたる」という普通の形容詞で、教会の名前になるより前から使われていました
アリストテレスが論理学で使った「普遍的な」と同じ語族です。キリスト教では、ある土地の教会に対して「全体としての教会」を言うのに使われました。だから、この語を名乗ること自体が「自分たちは一部ではなく全体だ」という主張になります。分裂したあとも複数の教会が同じ形容詞を唱え続けているのは、そのためです。
まとめ
- 直訳は「全体にわたる」。アリストテレスが「普遍的な」の意味で使った一般語で、もともと宗教の語ではない
- 381年の信条に「公(カトリック)なる教会」が入り、以来ほとんどの教会がこの句を唱えている。特定の教会の名前として英語で固まるのは17世紀
- 日本語には固有名詞の側だけが入った。同じ語が、使徒信条では「公同」と訳される