カルト かると
日常語になった神学
原語
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ラテン語
cultus
手をかけて世話をすること。耕作。そこから神々への祭祀
colere(耕す・世話をする・住みつく)の完了分詞から作られた名詞。culture(文化)・cultivate(耕す)・colony(植民地)も同じ動詞から出ている
「カルト」は、もとは悪口ではありませんでした。ラテン語 cultus の意味は「手をかけて世話をすること」。畑を耕すのも神々を祀るのも同じ一語で、culture(文化)はその兄弟にあたります。
「耕す」と「祀る」が同じ語だったころ
cultus は、動詞 colere の完了分詞から作られた名詞です。colere は「耕す」「世話をする」「住みつく」。ローマ人はこれを一語で済ませました。畑に手をかけることも、土地に住みつくことも、神々に仕えることも、同じ「手をかける」の一種だったわけです。culture(文化)、cultivate(耕す)、colony(植民地)は、どれもこの動詞から出ています。
宗教の場面での cultus は、「決まった神への、決まった作法での祭祀」を指しました。だから「〜の cultus」という言い方が自然に成り立ちます。ある神を祀る儀礼と、それを担う人々。ここに良し悪しの評価は入っていません。今でも古代史や宗教史の本は、この意味で cult を使います。日本語では「祭祀」「崇拝」「信仰」と訳し分けられます。
英語に入ったのは17世紀の初めごろ、フランス語 culte を経由してです。最初の意味は「礼拝・崇敬」そのもの。18世紀の初めごろには宗教の外へも広がり、人や思想や流行への傾倒を指すようになります。「成功への cult」のような言い方です。ここまで、非難の含みはありません。
いつ悪語になったのか
非難の色が付き始めるのは19世紀です。「正統でない、あるいはいかがわしい宗教」を指す用法が現れます。ただし今のような強い悪語になったのは20世紀の後半で、1970年代までには、この語がほぼ否定的な意味しか持たなくなったと指摘されています。
一方、社会学はこの語を記述の道具として使おうとしました。エルンスト・トレルチは、キリスト教の集団を「教会(church)」と「セクト(sect)」の2類型で捉え、そのどちらにも収まらない個人的・非制度的な宗教性を「神秘主義」という残りの箱に入れます。1932年、アメリカのハワード・ベッカーが『Systematic Sociology』で、この箱を cult と呼び替えました。規模が小さく、組織がゆるく、信じ方が個人的な集まり——という記述です。危険という意味は含まれていません。
意味の変遷
- 古代ローマ cultus は「手をかけて世話をすること」。耕作・養育・祭祀を同じ語族でまとめる
- 17〜18世紀ごろ 英語に入る。最初の意味は「礼拝・崇敬」。やがて宗教の外へ広がり、人や思想への傾倒も指すようになる
- 19世紀 「正統でない宗教」を指す用法が現れ、非難の色が付き始める
- 1932年 ハワード・ベッカーが、教会・教派・セクト・カルトの4類型を立てる。記述のための学術用語としての cult
- 1970年代以降 日常語の非難が強まり、研究の側は「新宗教運動」へ語を移す
今の使われ方
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「カルト映画」「カルト的な人気」
少数の熱心な支持者に支えられている作品や人物。ほめ言葉に近い
ズレ 「一つの対象に手をかけて尽くす」という原義がほぼそのまま残っている、珍しい例。英語の cult film も1970年代に定着した言い方で、非難の意味はない
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「ディオニュソスのカルト」(古代史の本で)
ある神を祀る儀礼と、その担い手
ズレ ラテン語 cultus の意味そのまま。学術の文章では、この中立の用法が今も生きている
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「あれはカルトだ」
危険で閉ざされた宗教集団だ、という非難
ズレ 20世紀後半に強まった用法。原義にも古代の用法にも、この非難は入っていない。誰が誰を指してそう呼んでいるかで、意味の大半が決まる
よくある誤解
「カルト」は、宗教の種類を表す分類の名前だ
今の日常語では、分類の名前というより、話し手がその集団をどう評価しているかを示す語になっています
同じ集団が、ある人には「宗教」で、別の人には「カルト」になります。境目を決める共通の基準が定まっていないためです。社会学は規模や組織の形で church / sect / cult を分けようとしましたが、日常語の強い非難がその区別を飲み込みました。研究の側が「新宗教運動」という別の語に移ったのは、そのためです。この語を見たときは、対象の性質より先に、書き手の立場が書かれていると考えたほうが、読みを誤りません。
まとめ
- 直訳は「手をかけて世話をすること」。耕すことと祀ることが同じ動詞から出ている。culture(文化)は兄弟語
- 英語では17世紀から19世紀の初めごろまでほぼ中立で、「〜への礼拝・傾倒」を指した。非難の色が付くのは19世紀、強い悪語になるのは20世紀後半
- 社会学は church / sect / cult という記述的な使い分けを試みたが、日常語の非難が強まり、今は「新宗教運動」を使うのが標準になっている