ミッション みっしょん
日常語になった神学
原語
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ラテン語 missio
missio
送り出すこと
mittere(送る・手放す)+ -io(〜すること)。送られた人ではなく、送るという行為のほうを指す名詞
「今期のミッション」の「ミッション」は、もとはラテン語の missio、「送り出すこと」です。送る側がいて、送られる側がいる。自分で決めた目標ではなく、外から渡された任務を指す語でした。
「送り出す」という動作の名前
missio は、動詞 mittere(送る・手放す)から作った名詞です。指しているのは「送られた人」ではなく「送るという行為」のほう。古代ローマでは宗教と関係のない普通の語で、兵士を軍務から解くこと、つまり除隊も missio と言いました。
神学に入ってからも、この語は長いあいだ地理的な移動を指しませんでした。父が子を送り、子が霊を送る。三位一体の内側で起きる「派遣」のことです。アウグスティヌスが『三位一体論』で扱い、トマス・アクィナスが『神学大全』第1部でこれを独立した項目に整理しました。海を渡る話ではなかったのです。
「遣わされる」という言い方の下敷きとして読まれてきたのが、ヨハネによる福音書20章21節です。父がわたしを遣わしたように、わたしもあなたがたを遣わす、という趣旨の一文。ギリシア語では前半に apostello、後半に pempo という別々の動詞が使われています。この2つに意味の差があるのか、それとも同じことを言い換えただけなのかは、研究者のあいだで意見が分かれます。
意味の変遷
- 古代ローマ 一般語としての missio。「送ること」。兵士の除隊もこの語で呼ばれた
- 4〜13世紀 神学では「父が子を、子が霊を送る」という三位一体の内部の出来事の名前。アウグスティヌスからトマス・アクィナスへ
- 1590年代 英語 mission が「海外への派遣」の意味を持ちはじめる。最初にそう呼ばれたのはイエズス会の活動
- 1805年ごろ 「その人が果たすべきこと」という意味が英語に現れる。送り主が見えなくなる
- 1952年前後 国際宣教協議会ウィリンゲン会議の前後で「ミッシオ・デイ(神の派遣)」という言い方が広まる。送るのは教会ではなく神だ、という言い直し
今の使われ方と、そのズレ
今の使われ方
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今期のミッションは新規50件
組織が達成すべき目標
ズレ 原義では送り主が要ります。自分で立てた数字を missio とは呼びませんでした
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ミッション・ステートメント
会社が何のために存在するかを書いた宣言
ズレ 形は原義に近いのに、送り主の席が空いています。誰に送り出されたのかは書かれません
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ミッションスクール
キリスト教主義の学校
ズレ ここはほぼ原義のまま。宣教のために送られた人たちが建てた学校、という意味です
よくある誤解
ミッションとは、自分で決めた使命のことだ
原義では、ミッションは自分で決められません。送り出す側がいて、はじめて成立します
missio は「送ること」という行為の名前で、文の主語になるのは送り主のほうです。企業が「わが社のミッション」と言うとき、送り主の席は空いたまま、「送られた任務」という形式だけが残っています。だから言葉に重みが出るのに、根拠をたどろうとすると行き止まりになります。
まとめ
- もとの意味は「送り出すこと」。送られた人ではなく、送る行為そのものを指す語
- 神学では長く三位一体の内部の出来事の名前だった。海外派遣の意味は16世紀末から
- 今の「ミッション」は送り主が消えている。任務の形式だけが残り、誰が渡したのかは問われない